ティール組織導入方法の1

英治出版から出た「ティール組織」が話題になっています。

ティール組織とは、2014年にフレデリック・ラルーによって執筆された原著『Reinventing Organizations』によって紹介されたフラットな組織を作るマネジメント手法の一つで、組織フェーズを、レッド、アンバー、オレンジ、グリーン、ティールの5段階の色に分けて説明しています。

何がすごいかというと、今までここまで包括的に組織の在り方、進化を表現した組織論はありませんでした。

例えば、グリーン組織の成功事例として記載されているサウスウエスト航空は、その昔バランススコアカードがもてはやされた2000年前後に、バランススコアカードの成功事例としてよく挙げられていました。

でも、それを真似てバランススコアカードを導入した会社は、サウスウエスト航空にはなれなかったのです。

では、何が違うのか?

その理由を書籍「ティール組織」は明らかにしてくれます。

ティール組織とは?

現在、最も一般的な組織は「オレンジ組織」です。社長の意思の元、想いを共有した経営幹部が会社を仕切り、事業部長、部長、課長とピラミッド状に下に指示を下していきます。

「ティール組織」とは共通のミッションの元、オーナーシップを持った個人の集まり、自営業者の集団のような組織です。スタッフ部門の人数は信じられないくらい少なく、利益率の高い集団です。細かな説明は省きますが、書籍「ティール組織」では成功事例として12社が挙げられており、オランダの地域看護組織ビュートゾルフ、フランスの金属部品メーカーFAVI、アウトドア用アパレルメーカーパタゴニアなどがあります。

オレンジ組織の企業がいきなりティール組織を目指すのは無理が多く、特に経営トップがティール組織の環境を維持することに非常に負荷と情熱を必要とするため、創業時か、経営トップ交代時に明確な意思を持って改革を行う場合以外あまりお勧めではありません。

しかし、ティール組織を理解し、ティール組織ならではの長所を真似たオレンジ組織にすることも不可能ではありません。

まずは、ティール組織ならではの環境をイメージし、今の組織環境を近づけていきましょう。

まずは、オレンジ組織はグリーン組織を目指しましょう

現在の多くのオレンジ組織が抱える問題、一部の社員が頑張りその他の社員があまり機能できていない、パワハラやリストラ、意味がなくダラダラ続く会議、調整や折衝だけに長けたマネジメント層、等の弊害は「行き過ぎた自由競争」「恐れから来る相手への攻撃」「人を信じられず個人に集中する分析や報告」から来ています。オレンジ組織で問題になっている部分のみ、まずはグリーン組織と比較し改善策を取り入れていく方法が一番自然だと思います。

グリーン組織の良いところは、現在世の中で主流のオレンジ組織、アンバー組織からの移行が比較的やり易い点です。ティール組織に移行するには、社長の意識レベルが高く環境維持に情熱を燃やす決心があること、経営陣や管理署、スタッフ部門など不要になる役割が多すぎること等若干ハードルが高いのです。

最終的にティール組織に移行することを前提として、ティール組織との違いを理解した上で、グリーン組織を目指すことは社員の賛同を得られると共に社員の淘汰(自主的な辞職を含む)という吉凶両面での変容の加速化が期待できます。

グリーン組織とオレンジ組織の大きな違いは、「価値観」、「コミュニケーション」、「マネジメント」です。

価値観の違い

オレンジ組織は、実力主義です。効率や売上を上げ、競争に勝つことで生き残ります。その精神は組織にも個人にも反映され、競争に負けた者は去るしかありません。経営は株主の利益を優先し、CSR報告書は面倒な義務と見なされがちです。

グリーン組織は、個人の多様性を尊重します。全員の声を活かし、ステークホルダーは、投資家、経営者、従業員、顧客、サプライヤー、地域社会、社会全体、環境であり、自社の社会的責任を果たすことがビジネスの中心と考えます。

ティール組織は、最も進化した組織形態で、オレンジ組織やグリーン組織の考えも内包します。つまり、組織として利益を上げないと存続の意味がないと認識していますが、その実現方法は組織内の個々人が自然体で互いに接し、個人の能力を超える力を出し合うこと。適材適所でアメーバのように一体となり変化し続けることで未来でなく今を全力で生きる。そんな生命体を理想とします。

コミュニケーションの違い

オレンジ組織は、業務遂行に必要な最低限のコミュニケーションしか求めていません。そのコミュニケーションすら、効率を重視し、的確な表現で最速最短で目的を果たす報告、会議が要求されます。

グリーン組織は、価値観を重視するあまり、効率やスピードではオレンジ組織に劣る場合が出てきます。ただ、多様性を尊重し、社員の自立やナレッジマネジメントの点で中長期的成長の可能性はあります。組織の仕組みは弱いところがあり、その不足を共通の価値感による実現意思と教育で補わないと存続しない、脆い部分があります。

ティール組織は、組織全体で教育やサポートシステムを充実させることが前提条件ですが、運用し始めると新しく転職してきた人もティール組織の価値観で振舞始めます。組織としての完成度が高いのです。

オレンジ組織の欠点を改善する要素を中心にグリーン組織で始め、今度はグリーン組織の弱点をティール組織の要素を増やすことで補います。

マネジメントの違い

オレンジ組織は、基本的に経営者からのトップダウンであり、利益の観点から都合が悪くなると、マネージャーの数や研修にかける予算をあっさり削減します。

グリーン組織は、従来の概念の上司(仕事を指示する、評価する)はいなくなります。1人ひとりがマネージャーとして自立した動きをします。その結果、特定の人に権力・権限が集中しなくなります。従来の上司に当たる人との会話は緊急時のみになります。

では、グリーン組織のマネージャーはどんな仕事をするのかというと、マネージャー昇格時に、サーバントリーダーシップの研修を十分に行い、一般社員のサポートに徹します。そして、360度評価により評価されます。

マネジメントにおいての欠点は(実はティール組織でも程度の差はありますが同じです)、緊急時は社長による強権発動により決断される、ということです。

ティール組織の一番の問題点はこの部分です。ティールの価値観で見ると「社長が最も大変で報いられない役割」に映ります。実際にその役割を担っている社長は「それが最も自然な形だから」で済ましてしまうのですが。

グリーン組織化の第一歩は?

最初に見直すのは「価値観」、「目的」

根本的に違うのは、「価値観」です。経営層が本当に価値観を変える覚悟があるのかが問われるところです。オレンジ組織のままで、あくまで、目的は「業界でトップを目指す」、「会社が生き残るため」であっても、価値観を「社員が幸せに生きること」を前提に据えるとかの妥協がないと、その先の改革が一歩も進みません。改善施策の1つとして組織改革をしても、根本的な部分で昔と変わらなければ、いつのまにか活動は廃れてきます。残念ながら、厳密に言えば最後の最後の決断では、オレンジ組織はあくまでオレンジ組織です。ギリギリの決断をせざるを得ない状況になる前に、新しい価値観を定着させるしか方法はありません。

一つの部署や一つのプロジェクトで試験的に運用して成果を出しても、全体が変わらなければ長続きしません。成果が認められれば、早い段階で全体を一度に変えなければ、それに関わる社員からも信用されなくなります。

社員がのびのび働ける環境を作る

経営陣が今後根本方針を変えない覚悟をして初めて、社員が安心して動き出します。

マネジメントルールを検討する前に、社員が不快、不愉快と感じる感情的な細かな不便、障害を取り除くことが先です。最適な解はいきなり見つけることはできません。一見無駄に見える模索の時期を経て初めて最適な方向に収束していくものです。ダラダラやるのではありませんが、何度も失敗を経なければ分からないものもあるのです。社員が信用してくれて、初めて動き出します。そして不器用に動き出すのを見てイライラして焦らすことも控えないといけません。ここが本当に時間のかかる部分です。

マネジメントの見直し

マネジメントに関してグリーン組織的な要素を取り入れると、どうしてもサーバント・リーダーシップが必要になります。従来のマネジメントスタイルでは、中間管理職に負荷がかかりすぎていました。大部分の中間管理職の方々が必死に踏ん張って、何とか均衡を保っていた部分もありますが、人材の指導、育成まで手が回らず、段々と平均的な人材の質は下がっています。これ以上質を下げないためにも、サーバント・リーダーシップを徹底したグリーン組織が増えることは非常に意義のあることと思います。

まとめ

ティール組織を導入するにあたり、現状のピラミッド構造のまま、部分的にグリーン組織、ティール組織の要素を取り入れることは、全く問題がありません。しかし、安易にフレームワークを取り入れるような扱いでは済まないと思います。逆に、社長がはっきりとした問題意識を持って社員に権限移譲を行う覚悟がない場合は、ティール組織を目指してはいけません。オレンジ組織のままマネージャーの権限を部分的に移管する、情意評価を取り入れる等の改革でも十分社員の自立的な活動を促すことは可能です。

1つだけ注意点があります。「管理職の仮面を被り、組織規範を整え、不要なコミュニケーションを整理することで業務遂行に必要なことのみに集中できる」という手法が一部オレンジ組織崇拝派に存在します。確かにオレンジ組織を維持したまま、低いマネジメントレベルのまま改善する即効性はありますが、それがゴールならば意識の高い優秀な人材や創造性豊かな才能は流出します。

会社オーナーは「会社は片腕に任せてほっといても回るようにしたい、自分は市場開拓とかもっと大切なことに専念したい」とお考えなのか?「ティール組織のような創造性溢れるコミュニティを運営維持したい」とお考えなのか? 後者ならば、最終ゴールまでの構想を社員に詳しく説明し、組織規範を徹底することは通過点に過ぎないことを彼らに明言してください。

最初にしっかり企業としての価値観、目的を見直し、今後の方向性を検討してからスタートしましょう。

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