中間管理職が今の職場を改善したいと自発的に動いたとき、もしくは何かの拍子に経営幹部に言われて全社改革のリーダーになったらどうするか、を書いてみます。
ティール組織を目指そうといくら社長や役員を説得しようとしても無駄
英治出版の「ティール組織」では、下記のように、中間管理職がティール組織を目指そうといくら社長や役員を説得しようとしても無駄と書いてあります。
”ミドル・マネジャーやシニア・マネジャーは何ができるだろう?
もちろん、具体的な事例を示したり、実際のティール組織への訪問を企画したりして、ティールの慣行をとり入れていくべきだとCEOと経営チームの説得を試みることはできる。
しかし残念なことに、私はこの方法もそれほど有効とは思わない。なぜなら、リーダーたちにティールの見方を無理強いしているのと変わりないからだ。
発達段階を上るのは、複雑で、神秘的で、精神的なプロセスだ。それは自らの内側から起こるもので、どんなに素晴らしい主張をもってしても、外から強制されてできるものではない。
「グリーン組織やティール組織の慣行を採用すると、素晴らしい投資リターンを達成できます」と、具体的な数値を示して証明しようとするコーチやコンサルタントによく出会う。
グリーンやティールの経営原理を売り込むために、事実上オレンジ組織の言語を駆使しているわけだ。しかし私はこの方法がうまくいったケースを見たことがない。
経営トップは最初は耳を傾けるが、どのような慣行が実践され、どの程度の権力を自分が手放さなければならないかを理解すると、関心を失ってしまうからだ。“
英治出版 アルデリック・ラルー著「ティール組織」第Ⅲ部 ティール組織を創造する 第1章 必要条件 P396より
確かに「社員が生き生きして自発的に働き出す」とアピールするより、「このしくみを使えば指示なしに社員が働き、売上が倍増して、あなた様はもっと重要な人脈作りやマーケティング活動に専念出来ます」と言う方が興味を持たれると思います。しかし、次世代のしくみであるティール組織は、社長や役員のEQの高さや価値観や社員を大切にしているか?を問うものであり、あたかも新興宗教に入信させようと強要しているかに受け取られかねないものです。
では、どんな改善が出来るのか?
同じく書籍「ティール組織」では、「アンバー/オレンジ組織でティール組織を目指した垂直移動は無理でも、同じ価値観の中で水平移動的に改善することは可能」と書いてあります。
「水平移動的改善」とは何でしょうか? どうすればいいのでしょうか? よく考えてみると、水平的改善も結構難しいような気がします。
ティール組織が出版されるはるか前に、私は当時在職した企業で社員の意識改革のリーダーを任され、3年間いろいろと試しました。今から思えば幸い活動内容そのものはそれほど外れたものではなかったのですが、オレンジ組織やティール組織という概念がなかったために、無駄な期待をし、相手の反応に落胆し、自分が間違っているのか?と迷いが生じました。
その時の経験を元に、ティール組織の価値観を意識しながら、「オレンジ組織の社長や経営陣に対して、何が出来るか?」を考えました。参考までに、私の経験をお話しします。
参考事例:「学習する組織」を教材に自立組織をつくる
きっかけは、2018年に「ティール組織」が出版されるはるか前の2003年に、当時勤めていた会社の役員から命じられ、「戦略的に動ける組織つくりと、次期リーダーの育成」をテーマに改革タスクフォースを行いました。
参考にした文献は、当時最新のマネジメント理論である、ピーターセンゲ著の「学習する組織」。
この書籍では、自律的に仕事を進めるための社員個人の志を育成し、チームで動くための共有ビジョンなど5つの規範を説いています。
また学習する組織を阻害する7つの原因も示してあり、最後の「経営陣の神話」では、次のようなやる気が失せる事実を突きつけています。
「大半の経営陣は日常的な問題に対しては充分に機能するが、決まりが悪かったり、脅威を感じるような複雑な問題に直面すると、協力し合うことはなく崩壊する。
学校で答えがわからないと決して認めてはならないと教育されてきた者が、会社でうまく立ち回り、やがて経営陣に選出される。彼らは複雑な問題の解明に秀でたものではなく、自己主張が上手なだけの人材の集団なのです。」
社長から改革を命じられていた若手役員が私に相談に来られ、私が具体的な案を示したところ同意して頂き、社長と若手革新派役員で相談し活動はスタートしました。
反対派役員にも同意をもらうため、経営会議に出席してプレゼンしましたが、冷ややかな空気でとくに反対するわけでもなく、皆さんあまり感心がない素振りでした。
後で発起人の役員に、何が問題でどうしようとしているのか、経営会議のメンバーでじっくり話し合うべきではないか?と言いましたが、見える成果を出してからにしたいと言われ、何となく嫌な予感がしましたが、とりあえずスタートしました。
活動内容:
サポート役の開発部門の事業部長兼役員と商品企画部門長兼役員がほとんどの会議に参加してくれ、営業、SE、開発から部課長50人以上が集まりました。
じっくり時間をかけて問題を話し合い、自分達で事業戦略を作りたいということになり、バランススコアカードの研修を受けながら戦略マップを作り月1で進捗会議を実施。
他にもプロジェクトマネジメント関連、工場との連携、人事、社内コミュニケーションツール、等様々な改善テーマで3か月ごとに発表会を行い、3シーズン活動し、約1年半活動しました。
結果:
それぞれのテーマですべて我々が目指す成果が出ました。但し、それは「組織の柔軟性やコミュニケーションが改善した」とか「若手社員が会社のビジョンと戦略を理解でき、自分のやりたいこととやるべきこととの折り合いがついた」といった「意識の変化」が中心です。
オレンジパラダイムの視点の経営陣が見たら、「そんな変化はどうでもいい、それを成果とは定義しずらいもの」「新興宗教に洗脳されたように、聞きなれない言葉をしゃべるようになっただけ」「地に足着いた活動に見えない」といった散々な評価でした。
賛成派の若手役員が「しっかり市場分析をして事業戦略を1年かけて次期リーダー達と作ったことが成果です。」と言うと「我々はそんなことは前から知っていた知識だ。」と言われたときは根の深さに落胆しました。この経営会議の後、「開発プロセスの改善」と「若手人材育成」のみ部分的に継続することになり、活動は終了しました。
まとめ
その会社は特に成果主義の傾向があり、仕事さえ出来れば人間性は問わないところがあるので極端にその短所が出た部分もあります。
しかし、社長も賛成派経営陣も非常に協力的だったので(今思えば彼らはティールの価値観だったのかも)、もしあの時「ティール組織」が出版されていたら、協力して頂いた経営幹部は我々の考えに自信を持って「自分が本当に正しいと思う価値観=ティール組織の価値観」に沿って行動してくれたのかもしれません。
どちらにせよ、話し合いが不足していました。価値観が違いがこんなにも大きな溝となるとは想像できず、お互いの認識する「成果」にずれがあるまま1年も進めたのですから。
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