1つの組織の社員が50人ぐらいの会社の場合、ティール組織への変容は非常にやり易いです。社長は仕事が出来る柔軟な考えの方が多く、体裁より実を取るタイプなので、ティール組織を理解できれば、実行力はあるのであっという間に組織改革は進みます。
リーダーが自分の非を素直に認め、途中で軌道修正をいとわないタイプが多く、どんどん改革が進み、社員達も真似をしていき、目覚ましい成果が出やすい。
そもそも、そんな会社の社員は、不満はあっても大企業のようにメンタルを病んでいる人が少なく、適切な指導がなく何をどうすればいいのか分からない状態なだけです。全社員に社長の目が届いていさえすれば、短期間で改革は成功します。問題は立ち上げ後です。
立ち上げ易いが短期間で崩壊しやすい
組織構造や人間関係がシンプルなせいもあり表面上はすんなり導入出来ますが、目立たない細かなキモの部分がおざなりになっている場合が多く、組織規模が大きくなるに従って問題が表面化し、バラバラになる場合が非常に多いです。
勉強不足、準備不足でも、人が少ないだけに最初はうまくいってしまうので、「やはりティール組織はダメだった」という間違った評価をしてしまうことが残念です。
組織が大きくなると、次のような問題が出てきます。
誰が何をやっているのか分からなくなる
人数が少ないうちは誰が何をやっているのか分かりやすく、可視化のしくみやtoolも不十分なままでもなんとか回ります。規模の小さな会社では自主経営だけでもメリットが生きやすく、すんなり受け入れられます。
この段階で全体性と存在目的も平行して取り入れていれば、崩壊は防げるのですが表面上うまく行っているので若さやノリの良さもあってこのままでも行けるような気がして、取り入れるのが遅れるケースが多いようです。
全員参加の話し合いもされないまま幹部社員が頑張ってなんとかまとめようとしますが、段々限界が近づいてきます。そもそもなんでそこまでしてティール組織を続ける必要があるのか?という疑問がわき出すと終結は近いです。
急にフラットにして自主経営だけ採用すると、各自のコミュニケーションスキルの未熟さや、各自を支えるサポート環境のプアさがもろに露見するのです。
社員が自由に動ける環境を作りやすいメリットはあるが、社員を下支えする体制を作る余力がないデメリットが後で段々見えてくるわけです。
乗りの良さだけでみんな意見を出し合えている状況は、今は良くても実は各自が自分の価値観で回りを見ているだけで互いの違いを認識し合うところまでは至ってないことが露見しないだけなのです。
ピラミッド組織なら曖昧ながらも上下の関係を前提としているので我慢できた些細な意見の衝突が、やりにくさになってきて気軽に周囲に相談やサポートを依頼しくくなるかもしれません。
コーチ役や指導役を決めて各自をサポートする必要があるのですが、グリーン組織以上の価値観の人材でないと適切にサポートできず、そこから少し形を変えただけのレッド/オレンジ組織に戻ってしまいます。
外部から人が増えると秩序がなくなる
先見性や人望、リーダーシップのある社長が仕切っていたときは、社長が作った良い流れは雰囲気として社員達に伝わり、「こんな時はこんな振る舞いをするべき」という見本となるコンピテンシーはみんな自覚していて、真似してくれます。
「わざわざ言わなくても少し考えれば常識で分かること」と言った感じで、現場リーダークラスが実践してくれて統制が取れる状態が続きます。
でも、会社の規模が大きくなり、大企業出身の中途社員が加わってくると、良い流れは徐々に崩れてきます。
社長が強烈な個性で、日々見本を示して社員達を引っ張っていけばいいのですが、表面に出ずあまり細かなことを言わないタイプの場合、流れからはみ出す社員が現れます。
大企業から転職してきた中堅社員が一番タチが悪い。いろいろ前職時に研修を受けているのか、ビジネスリテラシーは高い人が多くプライドがあり、もっともなことを言います。また、以前の職場の恵まれた社内環境を思い出して「前の職場ではこうしていた」的発言もたまにあります。前職での習性で、目上の人には表向き従順、目下には高圧的な態度を取る人がほとんどです。
でも彼らに一番欠けているのは全体性(みんなとの一体感)です。大企業での経験で一番害になるのは、オーナーシップの欠如であり、中小企業に転職した中堅社員は一様に「一般的な処世術」として身に付けています。
自分の手柄に関わる部分的な仕事しかしない習慣、上司から聞かれたときにうまく言い訳できる仕事を探すのです。「根本的問題解決に関わる目立たない仕事」より「今日顧客から入ったクレーム対応」を優先し、目いっぱい定時まで目先仕事を頑張るポーズを周囲にアピールします。
そんな悪習が純粋だった小さな組織に腐ったリンゴが紛れ込んできたように蔓延していきます。
解決方法
社長の考えとして、今挙げた問題もすべて一度は経験すべき試練と自覚され、乗り越えるたびに学習されていくのならいいのですが、「やはりティール組織はダメだった」と誤解されるのは何としても避けたいところです。
問題を防ぐには、「ティール組織を導入すること」を諦めてください。
もし、「ティール組織」の書籍を読んで「これこそ理想の組織」、「今の会社に必要なしくみ」と思われたとしても、「ティール組織の形から入ること」≒自主経営は諦めてください。
今のピラミッド組織はいじらずに、ティール組織の書籍をしっかり読み込み、様々な成功事例と比較し、自分達に最も適した形態はどんな組織か?のイメージを膨らませてください。
自由と責任は両輪です。自由を守るには罰も必要です。その厳しさが日本文化に合わないところもあり、そこはある程度乗り越えないといけないのです。
ティール組織では「モラル」が「ルール」に近い厳格さで重要になる部分があります。組織の発展状況に応じて、必要ならルールとして明文化が必要になってきます。
その変容に中途入社の幹部社員は反発するかもしれません。理解不足で反発しているのかもしれないので、全社員を集めて話し合い情報共有をした上で、組織を離れていく人もいるかもしれません。
この発展途上は、見かけ上ワンマン社長が仕切るレッド組織に見えるかもしれません。細かな部分は全員で話し合うことを習慣付けていきます。その際のコミュニケーションルールも、明文化していきます。但し、不具合があれば常に修正していくことを徹底していきます。
何をするときでも必ず一部社員は「以前の方が良かった」、「せっかく自分が8割築いてきたのにバラバラになった」と不平を言ってきますが取り合わないことです(残り1~2割が難しい!)。常に変化していることを楽しめる価値観の人しか残れないからです。
組織の変容はそこにいる社員の能力を見ながら変化速度を決めます。ついていけない社員が多いようなら、許せる範囲内で速度を落とし学習の機会を与えます。
長引くことで社長の負担が増えるようなら、組織内に「組織コーチ」を選任し、社長が行う組織変革のサポートをさせます。但し、社長の片腕として権力を振るう役割ではないので、中堅以下の柔軟な思考の社員をアサインし、出来れば交代制にして多くの社員に経験してもらいます。
こうして、社長主導の「ティール化を目指すレッド組織」でうまく行っている間に社長も含めた全社員がティール組織のシステムを良く勉強して、全体性と存在目的をしっかり固めていくことです。
人数が少ないので、最初は何をわざわざ確認し合う必要があるのか?と思われるかもしれませんが、社内のモラルもルールとして明文化して、どんどん更新していくとか、週1回の全員ミーティングで存在目的を話す等、飲み会的コミュニケーションではない相互コミュニケーションの改善を継続していくことです。
そして、全体性と存在目的もそこそこ準備できた段階で、中途採用の中堅社員から前職の悪い素行が洗い落とされているかを確認し、大丈夫そうならやっと自主経営に移行できます。
日本のティール組織のパイオニア企業として、日本レーザーが挙げられています。その会長の近藤氏の書籍を読んだのですが、強力なリーダーシップで時間をかけて組織を変容させたように思います。見本とするべき「日本に合ったティール組織の好例」と思いますが、リーダーが優秀すぎて誰もが同じことを出来るのか?という疑問が少し湧きます。
「ティール組織」をしっかり理解し、「組織が人を育てるしくみ」を分かった上で、どこまでリーダー個人の采配で推進するかも考えていかないといけません。
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