ティール組織導入の難しさ
ティール組織は、私が思い描いていた理想の組織環境「フロー組織」(=個人がやる気を出し適度な難易度と負荷の仕事に挑戦することで、心地良い精神状態を維持する環境)を実現するのに最も適した組織環境です。
しかし、従来の普通のピラミッド組織から移行するにはあまりにも無理があることも事実です。
① トップのリーダー(社長 or CEO)に確固たる意志と熱意があり、自ら動くこと
② (説得を経て)周囲(会長、役員、株主)が理解を示すこと
③ (研修を経て)組織の移行期の混乱に従業員が耐え機能すること
この3つの要素、社長、社長を取り巻く周囲、社員、すべての要素で大きな問題を抱えており、
ソフトウェア関係のスタートアップの会社以外ティール組織を導入することは不可能に近い難しさを感じてしまいます。
みごと成功させた名社長の著書を読むと、やはりティール組織ではなく、ピラミッド組織(オレンジ組織)の完成度を上げる形で改革を進めておられます。
時間をかけて実績を上げ、人を育て、オレンジ組織の典型的悪癖を摘み取るようにして、実質的にティール組織に近づけておられます。
つまり、「ティール組織の価値観」(オレンジ組織より進んだ次元の価値観)を持った人が目指す組織は、たとえ形態がピラミッド組織であっても全く違ったものになってきます。
オレンジ組織の優良企業から学ぶこと
例えば、「シェアを拡大させること」を最優先に考えるある世界的大企業では、従業員の年間離職率は150%です。下位10%の社員を追い出し、常に新たな人材を集めています。この会社では社員を留めておくことに意識を向けておらず、自社の価値観に沿って盲目的に服従する人材を求めています。この会社で勤務する間は「仮面」を被り続けることが求められるのです。
これも一つの在り方なのかもしれません。ブラックとはいかないまでもグレー企業の中の超優良企業として君臨し続けて、手本にする企業もあるようです。
この企業の特徴である「細かなルールと勤務情報で従業員を管理する」手法はティール、オレンジ組織に関係なく効果的なマネジメント手法と言えます。
ただ、人に関わる部分で「効率を上げる」ことを最優先にするか、「人の感情」に配慮するかで組織の在り方が大きく変わってきます。
従業員を信じず、彼らの感情を無視して数値のみで監視し、評価し、成績下位者は見せしめのようなペナルティーを課し、最後は排除していくのか。
ティール組織も、従業員に甘い対応をするわけではないのですが、排除する前に従業員の潜在能力を生かせる選択肢を用意します。
「組織に一番大切なもの」は?
オレンジ、ティールに関わらず何が大切かを考えてみました。
① 人を大切にするか?否か?
ティール組織は仮面を外し、自然に振舞うことで、自由なアイデアが浮かび、顧客優先の行動がとれると言われます。オレンジ組織は、仮面を被ったリーダーが部下と距離を置き、冷酷に指示することで人情を切り捨て利益に徹した割り切った行動がとれると言われます。
元々オレンジ組織は合理的な組織であり、感情を殺し部下と距離を置いて指示する方がマネジメントは楽になります。中途半端に個人の感情に配慮しても現場が混乱するだけの場合もあります。上司から部下へのコーチングとか1 on 1ミーティングとか欧米の文化ではうまく行っても日本人には合わない部分があります。
オレンジ組織の形態のままティール組織への移行を考えると、従業員の自由な発言や管理職の権限を移行させていく等、特別の配慮が必要になってきます。
② 組織(社長)の価値観や倫理感が反映された基本的な行動のルール
これは、社員全員が例外なく実践しないといけないことです。日々唱和するだけでなく、コンピテンシーとして具体的な行動に落とし込めるよう事例を挙げ社員全員が理解し、自分1人でも実践できないといけない基本中の基本です。(「挨拶をする」、「個人的な好き嫌いで判断しない」等)
③ 実務上のルール
ティール組織では、自由に働ける環境を整えるため自発的な組織貢献が必要で、オレンジ組織以上に個人の存在理由について厳しい部分があります。個人が組織に必要と認識されるための自己アピールも必要になります。これらのルールは全員が問題があれば改善提案可能で、何度も更新していきます。
④ 環境を整える
ティール組織は、社長が周囲から従業員を守り、「従業員一人ひとりが成長できる場」を提供します。従業員はその環境内で自由に行動し創造的な活動を行えるわけです。
オレンジ組織は、ピラミッドの頂点からの指示を順に下して行動することが基本であり、ルーチン業務に向いていますが、変化が激しく先の見通しが立ちにくい事業には対応しにくいスタイルです。
またスタッフ機能(人事、法務、財務、戦略策定 etc)の肥大化、セクショナリズムもフットワークを悪くする原因です。
分かりやすい数値目標、偏った成果主義による評価基準も見直す必要があります。
ティール組織のように「従業員を信じ、彼らが自由に動ける環境を作る」ことを目標にするのか、上司部下の関係を残し(責任を上司に残したまま)改善していくのか、決める必要があります。
⑤ 従業員を牽引するリーダー
オレンジ組織の場合は管理職が下位従業員を指導します。ピラミッドの形に添って各自の役割に徹することで、淡々と合理的に集団が動きます。権力や情報を持たされるので、その「武器」を使い社員を攻撃することが出来る諸刃の剣となります。また、創造性や個別の自発的活動が必要とされる市場を顧客とする組織では、やや柔軟性や決断力に欠ける部分があります。
ティール組織の場合は一人のリーダーが同じ役割を長く続けることを避け(権力や情報の集中を意図的に回避)、案件ごとに自薦他薦、全員で分担し、適材適所で最適な形に変化します。規格外の才能を持った個性を殺さず伸ばすことが出来ます。但し、互いの力を引き出す相互コミュニケーションルールを常にブラッシュアップして使いやすいものにしておくことが前提です。
オレンジ組織の悪癖
オレンジ組織の悪癖は、合理性や利益を追求するために仮面を被りロボットのようになることに慣れて、倫理や道徳に反する言動を取ることです。
これはオレンジ組織の特徴であり、「利益と合理化の追求」という価値観により、様々な問題は無視され続けています。具体的には「納期に間に合わすため、性能的に問題ないはずなので内緒で検査をしない」「問題行動を起こし、周囲に迷惑をかける社員だが、仕事から外せないので見て見ぬふりをする」などです。特に周囲に迷惑をかけたり不愉快な空気感を振り撒く人間の存在は、オレンジ組織では程度の差こそあれ「職場では当たり前の日常」となっています。
まずは個々人が、ティール組織のステージまで上がり、その視野で再度自分が属しているオレンジ組織を見て改善していく必要があります。
次回は、前章で挙げたオレンジ、ティール組織共通の重要ポイントに沿って、どうすれば、オレンジ組織を改善できるかを考えていきます。
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