ティール組織導入方法の6で書いたオレンジ組織下の改善活動の経験で学んだ教訓を書きます。
教訓の1:価値観の違いを忘れずにオレンジ組織に合わせながら活動する
オレンジパラダイムの組織では、問題を解決する方法は、「監視と罰則」しかないと本音では思っています。効率化や品質/納期遵守だけに関心があり、問題が起これば、パッチ処理的に品質や安全の部署に急いで実働部隊の監視体制を強化させるだけです。
これがオレンジ組織の実態です。しかし、まれに顧客や世間から根本的改善を要求されて、仕方なしに根本的改革を行うときがあります。そういったチャンスに乗じて、ゲリラ的に根本解決を行うという方法もあります。
但し、忘れてはいけないことがあります。それは、「オレンジパラダイムのリーダーは、どんな時でも根本的解決に全く興味がない」ということです。
いくら社員のやる気が出て、顧客満足度を上げた、とか成果につながったと経営会議でプレゼンしても、本音ではどうでもいいのです。彼らが一番好むのは、出来る幹部がその他の社員を仕切ってさっさと効率を上げたり売上を伸ばしてくれれば、それだけでいいのです。
ティール的価値観で成果が出て、同志の間で喜んでも、得意げにオレンジパラダイムの人に成果を話してはいけません。相手によってはオレンジ組織的成果のみ報告しましょう。
教訓の2:経営陣から真の理解者を見つけておく
たとえ、社長や役員から直接指示されて改善活動を開始したとしても、価値観の違いをすり合わせることをせずに進めると途中で空中分解する可能性が上がります。(私が経験したプロジェクトがその例です。成果が出ていたにも関わらず、経営会議で全否定されました)
社長や役員が出した指示に対して、ゴールイメージとそこに至るまでのプロセスを説明しても何の反論もないかもしれません。
「人を育てる」「便利な仕組みをつくる」だけでは解決しない根本的な可視化しにくい部分(個々人の感情)への配慮から来るEQ度の高い改善施策が理解出来ず興味もなく、反論も出ないのです。
ティール組織の場合は、人の感情を配慮し、不公平さや意見の不一致をすり合わせるプロセスがあります。オレンジ組織の場合は、「監視と賞罰」で無理やり黙らせます。このギャップを認識し、随時相談に乗ってくれる協力者が役員に居てくれない(出来れば社長)と活動は失敗します。
反対派を説得してもらうのではなく、ティール的しくみをどう潜り込ませるか作戦を立てる上で、理解してもらい、賛同してもらうのです。
教訓の3:オレンジパラダイムで認識出来る成果を出す
オレンジパラダイムの解決策は一見スピード感があります。自己完結型のサイコパスのリーダーに任せておけば、強圧的リーダーシップで協力会社を「アメとムチ」で使い、見える成果を出します。
または、一部幹部達が密室で監視体制強化策を検討し、現場管理職に指示すればおしまいです。そもそも現場から意見を聞くとか、現場で改善策を検討させるとか思いもつかないでしょう。
ティールパラダイムを取り入れて根本的な部分を改善しようとしているのなら、アメもムチも使いたくないし、現場社員全員で物事を決めるべきです。
ただ、いきなりそれをやると、現場のメンバー達もすぐに期待する成果を出せない可能性が高いので、事前準備や研修(ティールの基礎、相互コミュニケーション方法)は必要です。
社員1人ひとりが、研修を受け、自分で試行錯誤しながら学習していくプロセスをティール組織は重視し、オレンジ組織は時間の無駄と捉えます。
「人材育成」のコストや時間を節減するために「すでに一定基準以上のスキルのある経験者」を外部から調達したがるのもそのためです。人材が育たないと言いながら、育てる気がないのです。
この価値観の違いへの折衷案は、「暫定的に、力のあるメンバーがメインで動き、その他メンバーがサポートするチーム編成」でオレンジパラダイム的成果を早期に、確実に、出していくしかありません。あくまでみんなで納得し、早期成果をだすことを目的に動き、時がきたら各自が自由に動けるようにします。
教訓の4:情報や活動内容を全社員で共有する
オレンジ組織での改善活動は、結局は派閥の勢力争いに近いものです。派閥が無くても、考え方の違いで保守派と革新派に分かれ争うようなものです。価値観が違うことは致命的です。絶対に心を開くことはできません。オレンジ組織では最初から最後まで安心することはないでしょう。理屈で理解出来ることではないのです。
オレンジ組織では、新しいことを始めるときに、「何を始めるか?」が問題でなく、「誰が始めるか?」が重要なのです。こういった不毛な社内政治に関わることなく、本質的な改善を行い継続させるには、「情報を共有して幹部や一部の社員が密室で決めてしまうことを許さない」風土を定着させることです。
改善の活動や打ち合わせは、一部のメンバーだけでやっている感じが出ないように全社員に情報を共有し、打ち合わせにも参加できるようにしましょう。その時の会議の仕方もホールシステムアプローチで目的に合った会議手法を使えば生産的な会議が出来ます。
「ティール組織」にするのは無理でも、「全体性」や「存在目的」の慣行を取り入れることに賛同してくれる人は増えていきます。
教訓の5:活動メンバーだけで先行しすぎると周囲から浮く
意識改革活動や学習が進むと、活動メンバーはどんな状態(職場の雰囲気、社員の立ち振る舞い)を目指すのが正しいのかが段々分かってきます。すると今までのオレンジパラダイムで認識していた慣行や目指す成果が馬鹿らしくなってきて、活動に参加していない人との会話がずれてきます。
例えば、管理職の振舞いが、「周囲にマウンティングしたり、部下に目先仕事を指示だけして深入りせず、うまく行ってないところはいつも都合良く部下のせいにして、成果の出そうなところにうまく関わって存在感をアピールする。」といった低俗さが目に付くようになるのです。
マネジメントや相互コミュニケーションの学習が進むと、冷静に人の話をしっかり聴き、お互いの立場を尊重し、互いの妥協点を見つけ協働していくことが最も合理的だと心底分かってきます。出来るだけ多くの人が学習に参加できるようにし、学習資料等の情報を共有しましょう。
研修部門と連係して、社員向け研修を企画しましょう。現実的でないリーダー研修や1on1ミーティング、コーチング研修より優先するべきです。
教訓の6:成果について、互いの価値観の違いを認識しあう
オレンジ組織の中で、オレンジパラダイムの価値観や手法で成果を出すより、ティールパラダイムの価値観で振舞い、オレンジ/ティール両方の価値観で成果を出すことは何倍も難しい。
ティール組織の中なら自然に振舞うだけですむのに、オレンジ組織の中では、砂上の楼閣のような、常に気を抜けない作業になるからです。奉仕的精神が必要になり、無駄な時間(報告資料作成、報告会参加)にも付き合わないといけない。
オレンジパラダイムのマネジャーなら、「仮面を被って」やってますアピールをして、権力を振るって部下や外注に指示だけすればいいのです。
ティールパラダイムのマネジメントはそんなことは決してしないし、立ち上がりはどうしてもコミュニケーション改善などの改善作業や研修に時間を割かざるを得ません。
自分が頑張って動いて、周囲に理解者を増やし、「上司に頼らず、平等な協働体制の方がうまく行く」ということを実感してもらうことが、「最初の成果」です。ただそんなことを正直にオレンジパラダイムの経営陣に言うと、彼らは呆れるでしょう。
理想は、「社員が自立的に動く体制を作った」、その結果「〇〇の成果を出した」と、オレンジパラダイムの経営陣が納得する数字を出せればいいのですが、せめて社員&顧客エンゲージメント調査等の定性的数字で納得してもらうことです。
「組織環境を変える&実践的社員研修実施」→「エンゲージメント向上」→「オレンジパラダイム的成果が出る」というプロセスをしっかりオレンジ組織の経営陣にプレゼンしましょう。
加えて、保守派経営陣/オレンジパラダイムの役員なら、短期成果を出せたとしても、次は「〇年先までのマイルストンを出せ」と悔し紛れに言ってきます。
この点でも価値観が違い共通言語がないのでコミュニケーションを取るのに疲れますが、「未来の話をすることより、成果を出せた理由を理解し、今の組織力、柔軟性や高いエンゲージメントを維持し続けるサポートや、さらに改善していくこと」の方が重要です、と反論してください。
この時点でやっと、スタート時に議論できなかったこと、「成果とは何ですか?」という価値観の違いについて話せます。「見える成果を出す前の兆候」を話し、「その兆候を継続的に出す方法」を話すとオレンジパラダイムの経営陣は面と向かって反論は出来ません。総論賛成せざるを得ないからです。
そこから一歩踏み込んで「社員のやる気がないのは彼らを信じていないから。監視と管理で不信感を植え付けている」ことを話します。何をやっても、オレンジパラダイムの役員を完全に説得することは無理ですが、お互いの価値観の違いが明確になり、どちらが正しいのではなく妥協点を見いだせます。
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