中間管理職が組織改革をしようとするとき #2

テーマ「中間管理職の有志が集まって組織改革を草の根的に行うにはどうすればいいか」の#2になります。残念ながら中間管理職に出来ることはほとんどありません。ただマネジメントやリーダーシップを勉強し、日々の行動に取り入れることで少しずつ変えていけることはあります。そのヒントになるものをご説明いたします。

次にご紹介するのは第一回「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞、中小企業長官賞など、受賞歴多数の、すでにご存じの方も多い日本レーザーのティール化の成功例です。

近藤社長(現会長)の多くの著書のうち、「ありえないレベルで人を大切にしたら23年間連続黒字になった仕組み」(ダイヤモンド社 2017年3月発行)を中心にご説明します。

その2:日本的ティール組織の成功例

この著書を執筆の時点では、近藤社長はティール組織をご存じなかったようで「欧米の資本家と労働者は対立するのが前提」と書かれています。海外の新しい組織マネジメントの情報がない中で「経営者と雇用者は理念を共有する関係である」とお考えであり、価値観はまごうことなき「ティール組織のレンズ」で観られていると思います。

ただ、社長といえども様々な阻害要因(親会社の圧力、早急な経営改善、社員の質の向上)を考慮しながらなので、辛抱強く、少しずつ自分の描く理想の環境まで段階的に作り上げていかれたようです。その軌跡は後に続く者に非常に有用なテキストです。ぜひご一読ください。

ほとんどが社長向けに書かれた書籍と感じますが、正直近藤社長がサーバントリーダーシップにおいてずば抜けて造詣が深いため、当たり前のようにすーっと軽く説明されている部分に細かなノウハウ、コツを感じます。

細かな仕組みについては、検索していただければいろいろ出てくるので、私なりに重要と感じた部分のみご紹介します。

1.発達段階や環境に合わせてマネジメントを変化

巻末の問答集に「第1段階は、企業再建のためトップダウンで経営刷新を断行。第2は、社員のモチベーションを上げることを重視。第3は、社員の当事者意識を高める。第4は、社員が会社から大切にされている実感を持てる経営。最後に自己組織化への展開。」と書かれており、時間をかけて組織を作られていったことが分かります。

最初はピラミッド組織のままで肩書だけ残し、実質的にはフラットな社風を育み、独立後はフラットな組織に変更しています。今は自己組織化の段階ですが、グループ別の責任者を執行役員に抜擢しており、相変わらず「外枠」はオレンジ組織のままです。これから時間をかけて、よりティール組織の要素が増えていくのでしょうか。

あくまで著書を読んでの印象ですが、ティール組織で紹介された事例と、近藤社長の采配にわずかな違いを感じます。その違いは、ティール組織の事例の場合は、社長が作り上げた組織環境の枠の中で、社員が失敗しながら自由に経験し、成長していることです。それに対して、近藤社長は「社長が描く理想の環境」を時間をかけて作り上げていることです。それは決して悪いことではなく、むしろ外部環境からの圧力を防ぐ防波堤の役割を強いられるティール組織にとっての、一つの解決方法かもしれません。

つまり、外部環境はオレンジ組織的運営を見せ、内部はティール組織的価値観でまとまる方が、外部からの妨害や内部での自由過ぎる環境に甘えた悪用を防げるからです。また、あまりにも価値観が違う(=先進的な)組織運営を行うと社員がついていけないため、時間をかけて教育し水準を上げていかれたのでしょう。

ティール組織の社長の役割は「環境の維持」が最重要なのですが、近藤社長の作り上げた「外観オレンジ、内部ティール」の環境は細かなコントロールが必要になります。「社長自らが社員教育を実施」「内部環境の枠組みはすべて社長が決める」といった細かなサポートが必要です。社長の思うような会社にすることと、社員を上から押さえつけず自発的に仕事に取り組めるようにすることという相反する要素を両立させるには、社長自らが動き回り社員ひとりひとりとコミュニケーションを取ることが必要になり、大変な負荷がかかります。社長はそれだけの覚悟が必要ということでしょうか。

中小企業の典型的な環境である「優秀な人材を集められない」「使える予算が限られている」「失敗が許されない」等の中で、ティール組織を導入するときの模範的な導入手順と言えます。

2.クレド(Credo)による企業文化の浸透

クレド(Credo)とは、企業全体の従業員が心がける信条や行動指針のことで、ラテン語で志・約束・信条を表します。企業理念だけでなく、会社の価値観と役割、社員に約束すること、社員に求める姿勢などです。クレドには働き方の基本、望ましい姿、理念を体現する社員の条件などを具体的に示してあるので、日々の行動の判断基準となり、評価基準となります。

会議の前にクレドを唱和されており、絵にかいた餅ではなく、普段からクレドを実際の行動に照らし合わせて「こんな時はこうするべき」といった会話がされているのでしょう。

また、クレドの内容がすごく良くて(日本レーザーのホームページからダウンロード可能)、社員だけでなく、経営陣や社長の行動規範も明記されています。

確かに社長や経営陣が行動規範や約束を守らないと社員が守れるわけがないのですが、こういったことを社員の方から問題提議し上層部を非難することは避けたいものです。社長も経営陣も社員も同じ方向を向いて動き出せたときに初めて、このクレドを参考に独自のものを作成できるのはないでしょうか。

3.厳しい評価でも社員から不満が出ない仕組み

ティール組織では、対等な立場の第3者から評価されます。日本レーザーでは全役員が全社員を評価します。その評価結果は非常に精度が高く、社員の自己評価とほぼ同じか、会社側の評価の方がやや高い結果だそうです。

その理由は「毎日クレドを読んでいるから」と説明されています。社員だけでなく評価者である役員もクレドに書いてある「経営陣の決意」を守り、周りの社員からも認められた存在だからと思います。しかし最初は全役員が1泊2日の合宿で評価されており、10年以上続けた今は半日程度で済むようになったそうで、いかに企業理念の落とし込みを真剣に行われたかがうかがい知れます。

また、業績評価については、目に見える評価(営業が商品を売る等)と目に見えない貢献度(下支えの環境整備やサポート等)で評価されており、いかに社員の気持に立って考えてくれているかが分かります。

4.「会議も教育の場」、よく考えられた会議システム

全体会議、幹部会議、グループ会議、経営推進会議と、それぞれの目的を明確にし、無駄なく効果的に情報共有を行うだけでなく、社員教育の場と捉えてマネジメントされています。近藤社長自らがやって見せて、他の社員にもやらせてみてOJTしていき、その雰囲気を伝えていかれたと想像します。

①全体会議;毎週月曜日に30分、全社員参加、社長が今週のポイントを報告し、社員に発言の機会を与える。月に1度は1.5~2時間かけて経営概要や経営方針を伝える

②幹部会議;課長以上参加、自部門や会社の課題について論議

③グループ会議;幹部会議で上った課題を現場に落とし込むと同時に、現場の声を吸い上げる

④経営推進会議;グループ会議で出た意見を考慮しながら、部長以上で意思決定を行う

「全体会議」で社長が重要なポイントを伝え、「幹部会議」「グループ会議」で現場に落とし込み、

「経営推進会議」で最終判断を行う無駄のない流れです。会議の前に毎回全員でクレドを唱和することで価値観の共有を徹底されています。情報共有も当然必要ですが、「やり方」より「あり方」を重視した会議だからこそ「会議も教育の場」と言えるのでしょう。

5.まとめ

以上の4つの項目は、中間管理職が職場環境を改善しようとするときにも重要になるポイントです。

①そのときの環境に合わせた柔軟に組織を変える

②(クレドに沿って)全員の価値観を揃え、優れた企業風土をつくる

③社長や役員が社員全員の評価をとことん行う(クレドを参考に)

④社長~全社員間の流れを考えた会議のしくみ(クレドを参考に)

概要しか書けませんでしたが、社長の采配があまりにも優秀で参考になるアイデアが満載です。「社長室を作らず、ワンフロアに社長や全スタッフ部門全員が一緒に働く」「仕事中の雑談も重要」「社長からどんどん挨拶、話しかけを行う」「クレドで会社の利益や拡大より、社員の成長と幸せを第一に目指す」「クレドに経営陣のサーバントリーダーシップとしての決意表明を明記」等。

私はここまできめ細かな気遣いで守られた環境で働けた経験がないので想像に過ぎないのですが、職場で「これは何か違うんじゃないか?」と違和感を感じることが全くない環境ではないかと思います。安心して自分がやるべきことに集中できる環境は実力以上の成果を出せるのでしょう。

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