ティール組織が優れているところは、自主経営の形である「上司がいなくてフラットで創造的な仕事を自発的に出来る」という見た目の自由な部分ばかり語られています。
しかし、本当に優れているのは、「エゴから自らを切り離し、恐れが信頼に置き換わる」ことなのです。ある意味、組織マネジメントにおける「悟り」に達することなのです。倫理観でなく合理的視点で協働体制を作ります。これはAI化とも親和性が高いしくみになります。(=無駄な感情が入らない!)
この境涯になれば、SDGsのお題目が皮肉に思えなくなり、我が事として感じられます。
ティール組織の本質について説明します。
ティール組織への変容を成功させるキーポイント
ティール組織と呼ばれるために必要な構成要素は、「自主経営」、「全体性」、「存在目的」の3つで、すべてが必要というわけではなく、環境に応じて様々な形態があります。
そのうちで自主経営は形として分かりやすいため、いきなりこれだけ取り入れみてうまく行かず、「やはりティール組織はダメだった」と言われる方もおられるかと思います。
しかし、ティール組織は、下記のような目的に向かって、真剣に考え模索して導き出した一番合理的な組織です。失敗された会社は、そもそもの目的が違っていたのかもしれません。もしそうなら、同じ結果は得られないのは当たり前のことです。
ティール組織を作ったリーダーは次のような組織を目指しました。
①人々の可能性を引き出す組織とは?
②社長や役員だけでなく、社員のだれもが意味のある判断をできるようにするには?
③自己の保身やエゴを捨て、素直な気持ちで協力し合える、生産的で意欲のあふれる会議を実現するには?
④会社のミッション・ステートメントが絵にかいた餅でなく、日常の活動に反映させるには?
つまり、今顕在化している様々な課題、例えば「次期リーダー人材や、0から1への発想ができる社員の育成」、「社員のモチベーションが下がっている」、「不正や事故防止の監視や管理のための間接業務のコスト増大」といった問題の解決方法を真摯に考えた結果です。そして、決して社長が部下の片腕役員やリーダーにまかせっきりにはしなかったからです。
ティール組織を始めるためのベースとなる4つの要素
ティール組織の目立つ特徴である「自主経営、上司のいないフラットな組織」は、一旦その環境を整えると中で働く普通の社員は、日々周囲から良い刺激を受けリーダーに育っていきます。
根本的に起業精神旺盛な人でないと辛い面はありますが、一定のスクリミングを経て優秀で前向きな人材だけが残ります。管理職や間接部門も劇的に削減でき、少数精鋭の集団となります。
ただ、必ずしもフラットな環境にする必要はなく、従来ながらのピラミッド組織でも実現は可能です。形が問題ではなく、下記の4つの要素が必須なのです。
1.社長のやる気
社長自身がティール組織の環境「フラットな組織環境」という形だけでなく、そこにいる社員の日々の気持ちまで想像し、本当にその環境を実現したいと心底願うこと。
「まさしくそれが自分が求めてきた日常だ!」と心から思えなければ、目指してはいけません。もし、最初に少しでも迷いがあるのなら、「権力を捨てる」ことはせず、グリーン組織として少しずつ「権限委譲」をしていけば改革の失敗を防ぐことができます。「ティール組織を目指す」と宣言し一般社員の学習が進むと、社長の迷いが透けて見え、社員のやる気が失せるからです。
2.経営陣の賛同
社長にやる気があったとしても、会長や役員の賛同が得られないことが後に大きな障害となります。これが一番大きな問題となります。最初は総論賛成で特に反対せずに活動がスタートしても、オレンジパラダイムの視点である反対派経営陣を黙らせる要素は「利益や合理化」でしかありません。
「数値化出来ない成果」が視えない、たとえ見えていても意識/無意識で認めなくない。認めれば今まで信じて生きてきた自己の拠り所を否定することになるからです。
ティール組織にとって利益を上げることが目的ではありませんが、結果的に利益はオレンジ組織より出るので心配はないのですが、オレンジ組織の方法に比べると立ち上がりに時間がかかります。
オレンジ組織的アプローチである「外部から強圧的リーダーシップのリーダー人材を採用する」方法が短期的利益向上には絶対に有利です。
ティール化組織改革を社長が推進する場合、一番の敵は反対派経営陣、二番目の敵は反対派管理職、一番の味方は一般社員、2番目の味方は賛成派経営陣です。
ティール組織化をゴール設定し、反対派経営陣を黙らせ活動を成功させるためにも不本意ながら「見える(数値化できる)短期的成果」を目指すことも必要かもしれません。
3.自主経営を維持するための「紛争の解決」のしくみ
自由と責任はコインの裏表です。「互いを気遣う相互コミュニケーションルール」、「仲間たちが守るべき原則」をしっかり作るだけでなく、守らないといけません。
これくらいはいいだろうと自分は思っても、相手の認識は違っているかもしれません。そのグレーな部分を曖昧にせずに自分の考えを声に出して相手に伝えないといけません。ルールを守れない人を放置するわけにはいけません。人任せにせず、一人ひとりが環境を維持するのです。
ティール組織では曖昧さを無くすことで全員の居心地の良さを実現しています。一部の人だけが心地良い環境はその他の人には堪えがたい環境かもしれないのです。
多くの人が心地良いと感じる環境を維持するためには、各自が努力し続ける必要があり、時には厳しさも必要です。
ハイコンテクスト(≒暗黙の了解)文化、村社会の日本人には一番苦手な分野です。人の入れ替わりの少ない組織では、先々気まずくなるのを防ぐために何事もはっきり言わず、うやむやにして無難に過ごしてきた歴史があるからです。
社長がティール組織化を最終ゴールと決める覚悟があるのなら、最初は社長が仕切るピラミッド組織の形を残して「ワンマン社長ティール組織」or「暫定グリーン組織」を目指すことも可能です。その場合、「紛争の解決」のしくみは少しソフトなルールにして拒否反応を抑えることもできます。
4.人と人との協力に関する基礎の基礎についての知識を深め遵守する
「先入観なしに相手の話を良く聴く」、「相手の立場になって考える」、「相手の欠点を探し反論し打ち負かすのではなく、相手を理解しよう、意義を見出そう、協力できるできるところを探す」といった基本的な考え方、接し方、振舞い方を徹底させます。
例え横に自分の家族がいても恥ずかしくない言動を取る。当たり前のことです。新人研修で何度も繰り返し教えられた基礎的なことですが、オレンジ組織では全く実践されていない慣行です。
こんな基礎的なことが出来ていない人、もしくは意図的に無視する人でも、オレンジ組織では上司に気に入られたり、「利益」を出せば良い人事評価を得て昇進していきます。悪い手本を目の前にして若手社員も真似をします。そんな裏表のある人達で職場は溢れています。
自由な発想で良い商品を生み出そうと希望に燃えていた人達もいつしか感情を殺し、仮面を被り処世術を身に付けます。
ティール組織では仮面を被ったままでは仕事が出来ない環境を作り、オレンジ組織の慣行に染まった人達を生き返らせます。どうしても協働の体制で働きたくないという人は、組織を去るしかないまで徹底します。
オレンジ組織でもティール組織を参考にある程度改善は出来る
この場合もあくまで社長がリーダーの場合でしか、恒久的な改善は図れません。ある意味、ティール組織化するより難しいかもしれません。社長たったひとりでぶれずにティールパラダイムの価値観を持って、経営陣や社員を引っ張っていくのです。
並大抵の努力では出来ないことです。(日本レーザーのようなケースです)中小企業で、親会社の力が強く対外的な部分はオレンジの価値観を残さざるを得ない場合、等です。
社長がビジョンを説き、様々な施策を経て、形はオレンジ組織で、中身は、グリーン組織、そして部分的にティール組織になってます。
事例は少ないですが、なぜオレンジ組織のまま改革は成功したのでしょうか?それは前出の4つの要素を満たしていたからです。
特に3,4の項目を満たすためには、社長自らサーバントリーダーシップ(=まず相手に奉仕し、その後相手を導く)を実践し、周りの人達を感化させていかれたと想像します。
この活動のリーダーは社長でないと出来ません。いくら社長がそうなりたいと願っても、多忙なのを理由に、一部役員や事業部長に命じたのでは、十分な効果が得られないばかりか、万が一活動が軌道に乗ったとしても、社長の言動との不一致が露見し維持できなくなります。社長自らが実践しい一歩も二歩も先行した手本を見せていかないと人はついてこないでしょう。
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