ティール組織を導入する上で、目立たないけど最も重要なことが、「物語ること」です。
ティール組織の3つのブレイクスルー「自主経営」「全体性」「存在目的」の中で一番重要な慣行は、「全体性」です。
一番目立つのは「自主経営」の特徴であるフラットな組織構造ですが、実際はそれほど重要ではありません。社員の育成を伴う過渡期の組織形態はピラミッド組織のままで上司や経営幹部が仕切りながら進める方がうまく行く場合があります。
なぜ「物語ること」が重要か?
自主経営組織に限らず例えピラミッド組織であっても、組織の中で生産的で喜びにあふれた協力関係を実現するには、信頼が鍵となります。
ピラミッド組織の場合は、社長や管理職のリーダーシップに大きく依存しますが、互いの信頼関係構築まで至る組織はあまりないようです。多くの組織ではだれもが仕事用の仮面を被り、表面上だけ当たり障りなくコミュニケーションを取っているだけです。
オレンジ組織は効率を重視し、社員同士は競争相手です。必要以上のコミュニケーションを取ることは必要悪と捉えています。お互いのプライベートに関わることは無駄な行為、競争社会における人生の脱落者とさえ、みなされかねないのです。
ティール組織は、全く違う捉え方をします。職場にプライベートを持ち込みます。
仕事用の仮面を外し、職場の同僚に深くて豊かで意味のある人間関係を望みます。互いに自分の弱みをさらけ出し、信頼関係を深めます。
形骸化した、信頼関係をつくるためのイベント
オレンジ組織でも、昔から職場で結束するためのイベントはありました。ボウリング大会や飲み会です。しかし、最近はほとんどの組織で形骸化され、飲み会でもいつもの仲間同士でかたまって飲むだけです。
職場の飲み会の目的である、部下が上司の話に耳を傾け会話をつないだり、部下に話題を振る先輩上司がいたり、といった信頼関係を深めるコミュニケーションは軽視され、無視されています。
WBCで若手選手を集めて飲み会を開いたダルビッシュ選手は、ひとり一人に声を掛け、積極的にコミュニケーションを取りました。若手選手はその気遣いを感じ取り、一瞬で一体感を伴うチームとなったのです。
ティール組織では、オレンジ組織が無視してきた、本当は重要なコミュニケーション改善のためのイベントを、アフターファイブのイベントではなく、業務の一環として重要な慣行として定着させています。
ティール組織の「物語る」イベント
オレンジ組織は効率を求める組織、コミュニケーションの重要性は正面から否定は出来なくても、生産的でない行為として、無視したいのです。よって、アフターファイブの飲み会という曖昧な捉え方のイベントの中に「互いに腹を割って話す行為」を潜り込ませています。
ティール組織は、そのものズバリ「自分の物語を語る」ことが組織の一体感を高め、信頼関係を築ける唯一の行為と捉えています。
・「勇気と再生センター」では、研修で、一つの質問が投げかけられ、誰もが2~3分で回答する。(この質問はいつパスしても構わない)
・中途社員が加わるとき、特別なミーティングで迎える。それまでにいたメンバーは、新人に対する希望を象徴する「物」を持ってくる。代わる代わるそれを見せて、各自の希望を発表する。新メンバーは祝福を受け、仲間から歓迎されているという気持ちを抱くことができる。
・”ベルリンの学校ESBZには、物語ることを核にした信頼とコミュニティーをつくる行事、「賞賛ミーティング」がある。毎週金曜日の午後、全員が大講堂に集まって1時間のミーティングを開催する。
ステージには一本のマイクが置かれ、だれが話してもよいのだが、簡単なルールが一つある。「私たちはお互いをほめたたえ、感謝するために集まっている」ということだ。
物語ることは、生徒と教師の垣根を取り払う。だれでも沈んだ気分になったり、混乱したり、落ち込んだり、助けを求めたくなったりする。それが人の自然な姿なのだ。そして、だれにでも共感する能力はあるし、だれもが他人を助け、なぐさめ、友情を示す方法を知っている。立ち上がってほかの人をほめたたえるには勇気がいる。しかしこの学校ではそれがごく普通の慣行となっている。
英治出版「ティール組織」より”
まとめ
従来型の組織であるオレンジ組織においても、実は昔から「物語ること」は円滑な仕事をする上で重要な要素でした。
オレンジ組織は、それを非効率な要素として表面上は否定し続けています。そして、ティール組織はその行為を重要な業務の一環と捉え、効果が出るよう工夫を凝らしています。
現在無味乾燥な人間関係の職場が多いオレンジ組織において、「物語ること」の慣行を取り入れることは決して無駄とは思いません。
”作家のパーカー・パーマーの言葉;ほかの人の人生の旅について知れば知るほど、その人を疑いの目で見たり、嫌いになったりする可能性は少なくなる。「関係への信頼」を築くにはどうしたらよいか?お互いをもっとよく知ることだ。単純な質問から相手を知ってそれを仕事に生かすのだ。そして単に人を雇用しているのではなく、仕事のプロセスの中で互いの魂を尊重するような職場をつくり出すのだ。・・・。英治出版「ティール組織」より”
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