2018年に英治出版より出版されたフレデリック・ラルーの著書「ティール組織」の紹介を書いていくことにします。600ページ近い書籍ですが、内容が濃くて気になるところに付箋付けたら付箋だらけになってしまいました。同じテーマで違う角度から記述されているところをまとめてみると、より理解が深まるのではないでしょうか。
上司がいないチーム運営
ビュートゾルフのチームには上司(管理職)がいない。10~12名のチームメンバー全員が看護師で、チームごとに発生する管理業務全般に取り組んでいる。チームの方針と優先順位を決め、問題を分析し、計画を立て、メンバーの実績を評価し、時に厳しい判断を下す、といった仕事を一人のリーダーに負わせるのではなく、チームメンバーの間で分担している。チームとは実質的に、メンバーで自主的に編成された自治組織なのだ。(中略)
新しくつくられたチームのメンバーと既存チームに加入するメンバーは全員、「相互作用による問題解決法」と呼ばれる研修を受講して、健全で効率的な集団での意思決定をするための首尾一貫したスキルとテクニックを学ぶ。この研修を通じて、看護師たちは人と人との協力に関する基礎の基礎についての知識を深めることになる(皮肉なことに、この部分は多くの組織で無視されている)。
第Ⅱ部-第2章 自主経営/組織構造 P110 上司の不在 より引用
「リーダーがいないチーム」で働くことの難しさを想像してください。その経験がない人でも容易に想像がつくと思います。
仲の良い者同士が集まり、その中でも最も発言力のある者が全体を仕切り出す。その他の人達は黙ってその指示に従うことになります。逆らうと集団からはじき出される心配があるからです。
少し良心的なチームなら、互いの意見を出し合い多数決で決めることになるでしょう。この場合も、それぞれの専門分野への理解と尊厳が保たれていれば、その人の発言力はその実力に応じて高まるかもしれません。互いの利害関係が一致しなければ表面的には穏やかに話し合えます。しかし内面的には競争です。
ビュートゾルフではこのようなことを防ぐために、効果的な対処方法(研修、支援、ツール)を準備しています。それはどんな対処方法でしょうか?
効果的な会議
まず、会議への効果的な工夫が挙げられます。
①熟練したミーティングのファシリテーター
自律組織のポリシーに合った教育を受けたファシリテーションが出来る社員もしくは外部に委託した専門家に依頼します。効果的なミーティングを行うことへの重要性を重視しているのです。
②コンセンサスでなく個人の信念に沿ったミーティング
個人の意見が無視されないように、かつ全員が参加できるよう、3ラウンドに分けたミーティングを行います。
▼第一ラウンド
いまある問題を元に議題を挙げていく。意見や提案や判断を下さず、質問のみ
▼第二ラウンド
提案を再び検討、修正や改良を行う
▼第三ラウンド
グループとして判断を下す。コンセンサスはとらない。信念に基づいた異議を唱える人がいなければ、いつでも見直すという理解の下で解決策は採用される
③円滑な進行に向けての環境への配慮
・1人ひとりの声がよく聞こえる環境を用意し全員が参加し発言出来るようにする
・だれも進行を妨げず、自分の個人的な好みを押しつけようとしないなど、ルールを決めておく
・一部の人に任せるのではなく集団的知性こそが優れた意思決定を生むことを、会議の前に全員で再確認する
つまり、一つ一つは当たり前のことだけれど、実際はあまり守られていないこと。特にピラミッド組織において権力を持つ管理職の人達がぞんざいに扱っている事柄を非常に大切に扱い、全員が徹底して順守することです。
先ほどの引用の最後の記述にも同じことが書かれています。
人と人との協力に関する基礎の基礎についての知識を深めることになる(皮肉なことに、この部分は多くの組織で無視されている)。
第Ⅱ部-第2章 自主経営/組織構造 P110 上司の不在 より引用
話が少し外れるですが、AIの開発手法のひとつに「深層強化学習」があります。
倫理ではなく、人に近い直観を磨く「深層学習」と、最適な行動をAI自身に学ばせる「強化学習」を組み合わせた手法です。
AIで相手と戦うゲームをさせると、勝利のみを目標とすると強引な振る舞いになるそうで、それを防ぎ「フェアプレー」を覚え込ませるには「倫理」ではなく「合理性に裏付けられた経験」なのです。つまり「相手の進路に割り込んではいけない」ではなく「相手の進路に割り込んで事故を起こすと罰がある。うまく避けて勝利すると褒美がもらえる」という経験を積むことです。
社員1人ひとりが信念を持って仕事を遂行すること。周囲の人達がそれを効果的にサポートすること。それも全く同じことです。倫理観から個人を尊重しましょうと言っているのではなく、「最も成果を出せる合理的なコミュニケーション方法」だからです。
互いが気持ち良くコミュニケーションを取ることで各自が自発的に行動出来る、適材適所で周囲がサポートしてくれる、結果として「心地良い環境で過ごせる」(=最初に可視化出来ない成果が出る)、そして「(可視化できる)成果が出る」。
まとめ
日本も80年代以降、プロダクトアウトの組織マネジメントに最適なコミュニケーションスタイルを作ってきました。その組織内では1人ひとりが自律的に動く必要はなかったのです。数年の下積み時代を経て仕事を任され、10年ぐらい経験して管理職に昇進し現場を離れていきます。それぞれの役割分担があり、自分自身が責任を持って大きな判断をするのは部長以上の階級になってからでした。
今現場で人材が育たないと言われていますが、自律組織の環境に入ればどんな人材(ボーダー以上の人材)でも自分の意思で動き出します。当然入社20年のベテランと同じ働きはできません。自治組織のチームの中で自然発生的な階層(評判や影響力、スキルに基づく流動的な階層)ができ、新人なら新人なりに出来ることをやり、現場で学んでいくのです。
今の多くの組織で「出来る人材」が無意識に排除、もしくは黙らせている人達がいます。彼らは希望を失い辞めていき、残っている人は黙って上からの指示に従っているのです。彼らの才能を殺していることによる生産性の低さに気付いてください。
大事なことは、どうやってよりよいルールをつくるのかではない。ベストの解決法を見つけ出そうとするチームをどうやって自分が支えるか、なのだ。チームメンバーの潜在能力を高めて上から方向性を指示する必要性をなるべく減らすにはどうすればよいのだろう?──ヨス・デ・ブロック
第Ⅱ部-第2章 自主経営/組織構造 P113 上司の不在 より引用
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