識学とティール組織の共通点

ティール組織で検索していたら、「識学」という手法で厳しくティール組織を批判されている記述が出てきました。「ティール組織がうまくいくはずがない」と。

試しに識学の本を読んでみたら、結構いいこと書いてありました。面白いことにティール組織と共通の部分が多かったのです。何が違い、何に拒否反応を示しているのか考えてみました。

識学とは?

識学とは、組織運営理論で、なぜ生産性向上を実現できる組織とそうでない組織があるのか、どうすればどんな組織でも生産性向上を実現できるのかを追求しています。

識学の目的は「生産性の向上」です。仕事は「自分の責任を果たすこと」なので、その目的に向かって不必要なものをすべて削ぎ落とします。

「仕事は成果を上げることが目的」という前提に従っており、途中のプロセスを一切評価しない、

「成果主義」の組織運営を行います。

識学の考え方

①「人が起こす誤解や錯覚」をどうやったら起こらないようにするのかを体系化したもの

②期待と現実のズレで人は失望するし、間違った行動を起こす。ならば、いい意味で「期待をさせない」

③上の人間の意思決定は思いやりではなく、「決断」と「責任」で決まっていくべき

④「悩む必要のないところで悩まない」ため、そして変な空気の読み合いをしなくてもいいよう、

ルールをつくって徹底する

⑤その職場にその職責でいる以上、”頑張る”ことに理由は必要ない。そのため社員のモチベーションを会社が配慮する必要はない

識学の評判

・経営者にとっては、会社の方針をマネジメントするにあたり、意識のズレをなくしトップダウンの組織にしていくのには効果的

・中小企業経営者がステップアップするときの課題解決に、割と容易く成果を出せる手法

・トップダウンの人事になるため、従業員の主体性がなくなってしまいがち。融通が利かなくなったり、社員にとってストレスに感じる人もいる

・従業員育成よりも経営者育成に向いている。利益を出すことで会社方針に沿って働ける人材のマネジメントを経営者が学ぶ

・結果を出せない従業員、束縛を嫌う従業員は辞めていく傾向があるが、マイナス面を承知で新規採用で入れ替えを行う過程を経て生産性が向上している会社が多い

識学の著書から引用

ピラミッドには、ピラミッドなりのメリットがあります。識学では、組織の成長スピードを考えたとき、「ピラミッド構造が最適であり、最速である」と考えます。

管理職やリーダーなしで組織運営をする「ティール組織」や「ホラクラシー組織」の考え方に賛同するのであれば、まったくゼロから会社を創り、その概念を取り入れるしかありません(それでも、うまくいく可能性は低いと思いますが)。

形はピラミッドなのに、個人の考え方はティール。そんな中途半端な「いいとこどり」はできないのです。すでに出来上がった会社組織にいる人は、ピラミッド組織に適したマネジメント法を実践する必要があります。

   「ㇼーダーの仮面」 識学 安藤広大著 第2章 部下とは迷わず距離をとれ

最初はティール組織を全否定しているのかと思いましたが、著者の他の書籍も合わせて読んでいくと、マネジメントスキルが不足している状態で、ティール組織の良い面ばかりに惹かれて安易に導入するべきではないとのメッセージが裏にあるのでは?とも感じました。

ただ、ある社長はティールの考え方でピラミッド組織を運営され、社員を大切にし、利益も出しています(ティール組織への緩やかな移行期間かも知れませんが)。ティールの価値観に達している人は欧米圏で5%という調査結果があるので、日本ではもっと少ないのかもしれません。この社長が特別優秀で先進的な価値観をお持ちなのでしょう。残念ながら現時点では、組織マネジメントへの問題解決(利益を上げること)に識学的手法の成功確率の方が高いと予想します。

ティール組織と識学の共通点

ルールで縛り無駄なことはするな、というオレンジ組織の「識学的マネジメント論」と、個々が自由に動くティール組織で、どこが共通する部分なのでしょうか?

オレンジ組織の長所と短所

ピラミッド組織(オレンジ組織)の長所は「人望やマネジメントスキルの不足を権力や情報操作で補い、配下の人員を黙らせ迅速に動かすことができる」点と、「実力や根回しで収入アップや権力を得ることが出来る」点です。

この2点は両刃の剣となり、「配下の人材が持つ潜在的パワーまでを引き出せない」「人間的に問題のある人間が権力を持ち組織が腐敗する」と言ったマイナスの面に繋がります。

本来、オレンジ組織は、マネジメントスキルが不足した経営者や管理職にとって最適の組織形態です。マイナス要素である「経営者や管理職が意識的/無意識に関わらず権力を行使し、配下の社員のやる気を削ぐ」については、管理職に教育コストをかけてサーバントリーダーの指導を行い、間接部門にも本来の顧客は現場なのだと指導することで改善されるはずです。

しかし、近年マイナスの面が表面化してきたこと(社員の離職、心因的病気、不正)に対する的外れな対応策(単独の施策として、社員のモチベーション向上や、管理職によるコーチングセッションや1 on 1ミーティングの実施)は、組織の根本的な解決を行おうとせずに、パッチ的施策を人事などの間接部門が行っている場合が多く、その実行を押し付けられた中間管理職にとって無意味な負担でしかありません。

識学はオレンジ組織を円滑に運営させることに特化した最適の手法

このような環境の職場に識学を導入すれば、間違いなくスッキリと利益を上げることに集中できると思います。

識学は、オレンジ組織(ピラミッド組織)における、「生産性の向上」に特化し、社員のモチベーションなど、無駄なものをそぎ落としたマネジメントを指導しているからです。

特に中小企業で、今まで社長のリーダーシップだけで引っ張ってきた会社が次のステップ(部下に任せ規模を拡大)移行時の課題解決に有効です。但し、変化に対応し社員の創造性や自主性が必要になる市場向けの組織環境にはやや適応しにくいと考えます。

識学の教義は、オレンジ組織の最悪の状況(基本的マネジメントが出来ていないのに社員のモチベーションアップを図ろうとする)を手早く無駄なく改善し、オレンジ組織を機能させる手法ですが、それ以上でも以下でもありません。決して識学に問題があるわけでなく、それを使いこなせないといけないのです。

その組織やそこにいる管理職にとって、個々のマネジメントスキルが向上したわけではなく、無駄なことをやめ、最低限のオレンジ組織として効果的なマネジメント方法を教えてもらっただけだからです。その状態にとどまらず、そこから次のステップに踏み出さないと、その配下の人材が活きず成果が出にくくなります。

次のステージであるグリーン組織、ティール組織のステージの考え方を持った経営者には、識学は違和感がありますし、高いステージにいる従業員は離れていきます。

ティール組織と識学教義の共通点

ティール組織を円滑に運営するには、従業員一人一人があらかじめ、多くのオレンジ組織などで

無視されている「人と人との協力に関する基礎の基礎」についての知識を学びます。

この「基礎の基礎」とは、他人の意見に耳を傾けたり、相手に意思を伝えたりするための様々な

方法に加え、ミーティングの進め方やメンバー間でのコーチングなど、対等な立場の人々の相互コミュニケーションに関する実践的なスキルです。

ティール組織は、その前段階であるオレンジ組織、グリーン組織の慣習を包括しており、当然ピラミッド組織における最適なマネジメント方法として識学の教義と似通った方法、ルールをベース部分に持っています。

まとめ

識学は組織マネジメントの基本的なルールを説いていて、「生産性の向上」を目的に、不必要なものを削ぎ落しシンプルな組織運営を指導していて、プロダクトアウトの中小企業の経営者育成に最適なプログラムです。

しかし、従業員にとっては若干窮屈に感じ、人によっては合う、合わないがはっきり表れ、導入初期に多くの社員が辞職する企業もあるようです。決して間違ったことをしているわけではないので、ブレずに継続し、企業理念に合う社員に入れ替えていくことで確実に売り上げは伸びていきます。

スタートアップの企業が、将来のティール化も視野に入れて、利用できる部分は段階的に取り入れることも可能かと思います。但し、全社員と十分対話しながら進める必要があります。

Step1:

識学の教義(ピラミッド組織の最適マネジメント手法)も共通部分は取り入れ、オレンジ組織の軸足を固める。但し、グリーン組織化を平行して進めることで、「識学でつくった組織の空気感がゴール」「これだけやっておけばこれからも何も考えなくていいんだ」という間違った意識の浸透を防ぐ

Step2:

マネジメントレベルを維持しながら、グリーン組織化を図る。マネージャーの役職を残したまま、チーム運営スタイルに移行していく

Step3:

コミュニケーション方法の工夫と個人研修により、組織運営の質を下げずに、段階的にティール組織化を行う。

「自主経営」を導入するのは大きな決断が必要です。今までの肩書が無くなることで反発が生まれるからです。その点「全体性」を導入する方が混乱は少ない傾向にあります。しかし、全体性については、大きく反発がなくても必要性への理解が不足していると定着はしません。この場合は、Step1の時点から平行して社員全員にリーダーが目指すゴールと過程を説明することを平行して行っておく必要があります。

コメント